とある眼科医のつぶやき

とある眼科医は日頃の診療で患者さんから質問されることに答えたり、眼に関する役立つ知識を提供します。

角膜の生理学

角膜の生理学

 

・角膜の屈折力:約43D(眼球全体が約60D)

・曲率半径:前面が約7.7㎜、後面は約6.6㎜

・屈折率は約1.3

・角膜の横径:11.5~12㎜

・角膜厚:中央で約520μm、周辺部では約700μm

 

角膜上皮

・5~6層の非角化重層扁平上皮

・厚さは中央で約50μm

・表層より表層細胞、翼細胞、基底細胞が存在

・最表層の細胞間隙には密着接合(tight junction)があり、微生物や低分子物質の侵入を防御するバリアとなっている。

・細胞間では接着斑(デスモゾーム)が発達し、細胞間は強固な結合を有している。

・基底細胞は基底膜とヘミデスモゾームで接着し、Ⅷ型コラーゲンからなるanchoring fibrilという構造を介してBowman膜と接着している。

・基底膜は上皮細胞が産生する厚さ約50nmの薄い膜で、Ⅳ型コラーゲンとフィブロネクチンやラミニンなどの糖タンパクからなる

・角膜上皮細胞のターンオーバーは約1週間

・機能:①バリア②眼球表面を光学的に均一にして、透明性を維持。

①tight junctionによって物理的に強固になる。急性緑内障発作時に角膜上皮浮腫になるのは、角膜上皮細胞の表層のバリアが強固なため、実質内からの水分が外に移動しなくなり上皮内にとどまることによる。

・角膜上皮に必要な栄養はグルコース、ビタミン、アミノ酸。エネルギー源はグリコーゲンとグルコース

・基底部には樹状細胞も存在する。

 

Bowman膜

・微細なコラーゲン線維からなる無細胞性の均質な層

・約10μmの厚さがある

・再生しない

 

角膜実質

・角膜厚の約90%を占める

・構成成分

①角膜実質細胞

②コラーゲン

③プロテオグリカン(コアタンパクに多数のグリコサミノグリカン鎖が結合したもの。角膜実質のグリコサミノグリカンとして、ケラタン硫酸が約65%、コンドロイチン硫酸が約30%の割合を占める。ケラタン硫酸はルミカンやケラトカンと呼ばれるコアタンパクと結合し、また、コンドロイチン硫酸はデコリンと結合し、プロテオグリカンを形成している。)

・細胞間のたがいの突起はギャップ結合で結合

・コラーゲンはⅠ型が主、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ型も少量存在

・角膜の透明性の維持には直径の小さいコラーゲンが近接して等間隔に配列することが必要(格子説)

・機能:

①コラーゲンとプロテオグリカンの機能

角膜実質は一定の水分(78%)を常に含むことで一定の厚みを維持することが必要。

コラーゲン線維間を埋めるプロテオグリカンを構成するグリコサミノグリカンは非常に強い吸水圧を持つ。

角膜実質の厚みはこの吸水圧と角膜上皮、内皮細胞のバリア機能、内皮細胞のポンプ機能、眼圧とのバランスにより、角膜の一定の厚みを維持

②角膜実質細胞の機能

コラーゲンやプロテオグリカンの合成

コラーゲン合成と分解を担うことで、炎症や創傷治癒に関与

 

Descemet膜

・内皮細胞から分泌される基底膜

・厚さは約10μm

・水晶体嚢とともに人体の中でも最も厚い基底膜

・主成分はⅣ型コラーゲン、Ⅷ型コラーゲン、ラミニン

・PAS染色陽性

・Descemet膜は比較的強靭で、形状維持には重要

・Descemet膜が損傷を受けると、周囲の内皮細胞が新たな二次Descemet膜を再生する

・anterior banded zoneとposterior non-banded zoneの2層で構成

・加齢と共に肥厚する(posterior non-banded zoneが肥厚)

 

角膜内皮

・1層の扁平細胞

・前房側から観察すると6角形

・細胞質内にはミトコンドリアが発達し、前房側の細胞間には密着結合が存在する

・眼内手術によって内皮細胞が損傷を受けると、周囲の内皮細胞の伸展と拡大によって修復される→平均細胞面積が増大し、細胞密度が低下する。

・20歳代の内皮細胞密度は約3000個/mm2であるが、内皮細胞数は加齢に伴い漸減する。

・細胞密度の著しい低下(約500個/mm2以下)は水泡性角膜症の発症要因となる。

・機能:角膜実質内の水分量を一定に調節するため、バリア機能とポンプ機能を有する。

①バリア機能と選択的透過性

・細胞間結合の一部に間隙があるため、ある程度の水の通貨は許容する性質を持つ

・前房水からグルコースアミノ酸、vitaminを運ぶ

・このバリア機能にはCa、還元型グルタチオンが必要不可欠

・前房内潅流液のpHは6.5~8.2に保つ必要があり、BAKはここを傷害しうる。

②ポンプ機能

・Na/K ATPaseが主役

 

角膜上皮の幹細胞

・角膜上皮と結膜上皮移行部に輪部上皮があり、ここに角膜上皮の幹細胞が存在する。

・POV(palisades of Vogt)輪部上下方にある柵状構造で、これがあると健常な輪部上皮であることを意味する。

 

神経

・角膜の神経線維は輪部から侵入し、主として角膜実質内前方2/3の間を走行し、Bowman膜を貫通した後、上皮細胞の細胞間隙に神経叢を形成する。